着物は、敬意をあらわす装いです

着物には、さまざまな種類があります。

留袖、振袖、訪問着、付下げ、色無地、小紋、紬。

そして、同じ「着物」という形をしていても、それぞれに着る場面や役割があります。

なぜ、着物にはこれほど細かな「格」があるのでしょうか。

それは単に、昔からの決まりを守るためだけではありません。

私は、着物とは
「その日、その場所、そしてそこにいらっしゃる方への敬意を、装いであらわすもの」
だと思っています。

「何を着たいか」だけではなく「何のために着るのか」

普段のお出かけで着物を楽しむのであれば、自分の好きな色や柄を選び、自由にコーディネートする楽しさがあります。

けれど、結婚式や成人式、卒業式、七五三、お宮参りなど、人生の節目となる日は少し違います。

そこには必ず、

「誰のための日なのか」
「自分はどのような立場でそこにいるのか」

ということがあります。

たとえば結婚式。

新郎新婦のお母様が黒留袖をお召しになるのは、単に「結婚式だから黒留袖」というだけではありません。

大切なお客様をお迎えする側として、正式な装いをする。

そこには、お越しいただいた方への感謝や敬意も含まれています。

成人式の振袖も同じです。

華やかな振袖を着ることだけが目的ではなく、二十歳という人生の節目を迎えたことを、装いを改めて祝う。

卒業式の袴、七五三の祝い着、婚礼の白無垢や紋付袴にも、それぞれ意味があります。

人生の節目だからこそ、普段とは違う装いをする。

日本人は昔から、装いによって「今日は特別な日です」という気持ちをあらわしてきました。

高価な着物=礼装ではありません

着物を見ていると、とても高価な紬や、手仕事の素晴らしい小紋などがあります。

作品として見れば、本当に見事なものもたくさんあります。

けれど、高価だからといって、どこにでも着て行けるわけではありません。

たとえば、どれほど高価な紬であっても、基本的にはお洒落着です。

一方、礼装には礼装としての染め、柄付け、紋、帯、小物があります。

つまり着物の「格」は、値段だけでは判断できません。

まず着物全体を見て、

染めの着物なのか、織りの着物なのか。

どのような柄付けなのか。

紋が入っているのか。

そして、どの帯を合わせるのか。

そうしたものを総合して、その着物がどのような場面にふさわしいのかを見ていきます。

着物を知るということは、値段を知ることではなく、その着物が持つ役割を知ることでもあるのです。

着物の「格」は、人を縛るためのものではありません

最近は、

「着物は決まりごとが多くて難しい」

と言われることがあります。

確かに、洋服に比べると分かりにくい部分はあると思います。

けれど私は、着物の決まりごとを、単なる窮屈なルールだとは考えていません。

なぜその装いをするのか。

その意味を知ると、見え方が少し変わってきます。

結婚式に参列する。

お子様の入学式に出席する。

七五三で神社へお参りする。

成人を迎える。

卒業を迎える。

そこには、自分だけではなく、相手や家族、そしてその場をともにする方々がいらっしゃいます。

だからこそ、その日にふさわしい装いを選ぶ。

それは、

「今日という日を大切にしています」

という気持ちを、言葉ではなく装いで伝えることでもあります。

着付けをする側も、意味を知っていたい

私たち美容師や着付けをする側も、ただ着物を着せるだけではいけないと思っています。

お客様がお持ちになった着物を見て、

「これは何という着物なのか」

「どのような場にお召しになるのか」

「その方は、どのような立場で出席されるのか」

そこまで考えて初めて、その日の装いをご提案することができます。

帯や帯締め、帯揚げ、草履やバッグも含め、礼装には礼装としての合わせ方があります。

そして着付けそのものも、晴れの日の着付けと普段のお出かけの着付けでは、求められる仕上がりが違います。

だから私は、技術だけではなく、着物の意味を知ることも着付けの仕事の一部だと考えています。

受け継いでいきたいのは、形だけではなく「心」

時代とともに、着物の着方や考え方も少しずつ変わっています。

昔とまったく同じでなければならない、ということではありません。

自由に着物を楽しむ日があっていい。

好きな着物で町を歩いたり、食事に出かけたり、季節の装いを楽しんだり。

それも着物の大きな魅力です。

けれど、人生の節目や改まった席では、

「なぜ、この着物を着るのか」

を少しだけ考えていただきたいと思います。

着物には、長い年月の中で受け継がれてきた意味があります。

相手を思うこと。

場を大切にすること。

人生の節目を丁寧に迎えること。

そして、装いを整えることで、自分自身の気持ちも整えること。

着物文化として次の世代へ残していきたいのは、形や技術だけではありません。

相手やその場を思い、装いを整える心。

それこそが、日本の礼装が長く受け継いできた大切なものではないでしょうか。

ヘアメイク着付け 杠では、婚礼、成人式、卒業式、七五三など、人生の節目となる日の着付けや衣裳についてご相談を承っております。

「この着物はどのような場に着られるの?」
「母から譲られた着物を着たいけれど、今回の席に合っている?」
「着物と帯の組み合わせが分からない」

そんなときも、着物だけを見るのではなく、どのような日を迎えられるのかを伺いながら、その日にふさわしい装いをご案内いたします。